活躍中の卒業生に聞いたパレットクラブの魅力

大塚砂織

1期イラストコース卒業

おおつか・さおり…神奈川県生まれ。短大卒業後、電機メーカーの仕事を経て、フリーのイラストレーターに。雑誌、書籍、企業広告、WEBのイラストなど幅広く活躍中。
http://saoriotsuka.com/index.html

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●パレットクラブを選んだきっかけ

働き始めて、仕事が1日の大半を占めるのにもっとやりたい事はないのだろうか、と考えた時に、子どもの頃から絵を描くのが好きだったので、自分のアイデアなども活かしながら絵が描けるイラストレーションという仕事に興味を持ちました。会社と掛け持ちで夜にセツ・モードセミナーに通い、卒業後、ちょうどパレットの一期生の募集があったので、「現場の第一線の先生方に話を聞ける」というのに魅力を感じて入学しました。セツに通っていた時は「自分の絵って何だろう」と模索していたんですが、卒業する頃やっとなんとなく見えてきたところでした。若かったので早くイラストで食べていきたいと思っていて、実際にイラストを仕事にしている先輩から学びたかったところに渡りに船でした。

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『再発見の発想法』
著/結城浩(SBクリエイティブ)

●パレットクラブに通って

まず、入学した時に建物がおしゃれで、わあ!と思いました。セツもおしゃれでシックでしたが、セツがパリ派ならパレットはニューヨーク派、みたいな(?)。そして肝心の授業ですが、毎回様々な講師の方が来て、それぞれの視点からの批評、アドバイスがあり、充実していました。課題をこなすのも楽しく、クラスの他の方の作品にもたくさん刺激を受けました。一年間は短いようでしたが、とても濃い時間を過ごしたと思います。

●授業

どの先生の授業もそれぞれ興味深かったのですが、ある時上田三根子先生が「イラストの仕事は、私生活でつらい事があっても楽しいものを提供しなければいけない時もあるのが大変」というようなお話をされていたのが印象に残っていて、キャリアを重ねるにつれて本当にその言葉への共感と、改めて上田先生はすごいなあという気づきを感じます。人生にはいろんな事が起こるので価値観や気分など変化が訪れる事もありますし、人間は均一な自分というのは意外と保てなかったりもする存在だと思いますが、仕事では常にクオリティが求められます。その時々の自分の内面の変化も当然絵には反映されると思いますが、その中でクライアントが自分に求めるものもきちんと期待以上に出していく事というのは、イラストレーターにとって大事な能力だと思います。

●最初の仕事

授業でアートディレクターの大久保裕文さんに絵をみていただいたのがきっかけで、雑誌のカットのイラストの仕事をいただきました。自分の絵が雑誌に載ってるのをみたのはとてもうれしかったですね。その後、ペーター賞で入選し、イラストレーション誌に受賞イラストが掲載されたのですが、それを当時広告代理店にいらした現講師の寺井剛敏さんが見て、広告の仕事をくれたんです。それがかなり大規模な仕事で、それで独立できるかな、と思って会社を辞めました。今思うと我ながら無謀だったと思いますが、そこから23年仕事を何とか続けています。

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翻訳ミュージカル『NOW, HERE, THIS』のパンフレット

●パレットで役立ったこと

絵が上手い人、というのはもう本当にたくさんいますよね。しかし、イラストレーションで長く続けていくには、やはりうまさだけではない、その人にしか描けない視点というか価値観のようなものが必要だと思います。また、講師の先生方は、先生でありながらも、生徒からも常に刺激を受け向上していこうとされていました。イラストレーターというのはゴールのない努力の日々なんだなあと思います。まだまだ精進です。

●最近の仕事

私は書籍の装画や中の挿絵や、雑誌読み物や小説の挿絵が多いですが、特にジャンルが決まってるわけでなく色々な仕事がきますね。近刊ではSBクリエイティブ刊の結城浩さんの「再発見の発想法」という書籍の装画と挿絵や、文春文庫の樋口有介さんの小説「あなたの隣にいる孤独」の装画や、ブロードウェイの翻訳ミュージカル「NOW, HERE, THIS」のパンフレットとポスターの仕事などをしました。また、日経新聞の土曜版「日経plus1」で小さなコーナー「元気のココロ」というコラムの挿絵を描いていて、もうこの仕事はコラムの名前は変わりながらも15年以上継続でやってるのではないかと思います。ありがたいですね。

●イラストレーターになって

本の仕事が多いので、仕事をする際に本を読めるのがとても楽しいです。仕事をしながら価値観をたくさん広げてもらいました。内容をよく理解しながらも単なる説明に終わらないよう、少しひねったアイデアを加えた絵を描きたいと心がけています。仕事を始めてから一貫して、絵を描く事は楽しいです。大変なのは、仕事が不規則で、忙しい時や暇な時などの波がとても激しい事で、これは20年以上経った今でも慣れませんね。また、やはり人と関わる事が少なく孤独な作業でもありますし、自分の評価がわかりにくい仕事でもあるので、精神的にも肉体的にも疲れを取り、自分の気分を良く保てるような気分転換をするよう心がけています。

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『幸福のヒント』
著/鴻上尚史(だいわ文庫)

●これからやってみたい仕事

やはり書籍の仕事はもっとしたいですね。ただ、自分が思っていなかったようなジャンルで声をかけていただくのも非常に面白いので、思わぬ素敵な出会いがこれからもあるとうれしいですね。女性の服を描いたり、人物のない静物などを描くのも案外好きなので、シックな媒体のイメージ的な挿絵などの仕事も何かできるといいなあとか思います。

●影響を受けた作家

プッシュピンのシーモア・クワストやトーベ・ヤンソンが昔から好きですね。でも、自分の仕事領域に近い既存のイラストレーションやグラフィックイメージを見ると直接的な影響を受けすぎてしまう事もあるので、どちらかというと景色や写真を見たり、詩を読んだりして内面の発想力を鍛える事を重視しています。

●生徒さんへのアドバイス

入学したての期待と不安にあふれた時というのは、何かを吸収するのに適した本当に充実したモチベーションの高い状態と思います。自分の好奇心、わくわくする気持ちというのは大切な宝物です。それを大事にして、嫌な事を言われた時もめげずに「自分には自分にしか持てない視点がある」と自分のポテンシャルを信じてがんばってほしいですね。まあ、私も偉そうな事言えるほどではなく、自分に言ってるんですけど。

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『迷子の眠り姫』
著/赤川次郎(中公文庫)